彼の両親に初めて会う時、たまらなく緊張しますね。特に、結婚を考えている彼とか、プロポーズを受けてからのご挨拶で訪ねた時の緊張感は、たまりません。
今後の印象が決まってしまうと考えれば、心臓が喉まで出掛かって波打っている感じとか、緊張から血の気が引いて手先も冷たいとか、もう大変です。そんな彼女のファッションとは?
彼女は専門学校卒業後、居酒屋の店で勤務しており、彼はその店にお客として来ました。
彼女は一目で彼に恋をしました。彼も同様で、ふたりはつきあうようになりました。彼の父親は教師、母親は専業主婦で、平均的な中流家庭です。
一方、彼女はシングルマザーの母親と弟の三人家族です。彼女は母親が金銭的にも精神的にも苦労してきたのを知っていますから、できるだけ母親の負担を減らすよう頑張っています。
彼女は見た目、派手なギャル風ですが、素顔を知っている彼は、彼女が大好きでした。彼は両親に尋ねられ、彼女の存在を打ち明けました。両親が彼女の写真を見たがったので、彼は見せました。
そこに写っているのは、小顔でくりくりの目の彼女でした。その目は黒のアイラインで強調され、まつげをびっしりとつけて、より大きく見えるよう強調されています。
髪は黒髪とは程遠い、淡いブラウンに染められ、ウエーブをかけていました。ブイサインをした指には、着脱式のネイルを施してあります。
「軽いように見えるけど、本当にいい子なんだよ」
彼は学生の頃から何人かの女性とつきあってきています。
その彼の言葉なので、両親はその通りなのだろうと思いました。ただ、いかにも今風の彼女に、両親は違和感をぬぐえませんでした。
近いうちに家に連れておいでと言われ、彼は彼女に伝えました。
この頃、まだ言葉で確認してはないけれど、2人はお互い結婚相手として意識する時期でした。「いつ言おう」「いつ言ってくれるのかしら」と互いに悩ましい頃だったのです。
彼の両親に紹介することで、きっかけになるかもしれませんでした。
彼と彼女は、彼の両親に会う日を決めました。
彼と彼女は緊張しました。彼の両親も彼女の母親も緊張しました。彼の両親は今どきのギャル風女性をどう迎えればいいかわからず、彼女の母親は何を着せればいいかわからず、親たちはおおわらわとなりました。
いよいよ当日を迎えました。
玄関で出迎えた彼の両親は、驚きました。彼女は髪を黒色に変えて結い上げ、パールのイヤリング、ツイードのスーツ、真珠のネックレス、黒のパンプスに身を包んでいました。
父親はわかりませんでしたが、母親にはすぐにわかりました。
残念ながら彼女の身につけた服もアクセサリーも、上から下まで合わせて恐らく1万円前後でしょう。
しかも手の爪は、これはそれなりでしたが、派手でデコラティブなネイルですし、まつげはびっしりでした。さすがの父親も爪とまつげの派手さはわかりました。
もっと残念なことに、持参した手土産はミスタードーナツです。ミスタードーナツは悪い品ではありませんが、恋人の両親に初めて会うのに持ってくるか?
彼の方はと見ると、服にもお土産にも頑張った彼女が可愛く、誇らしいとでも言いたげでした。
母親はため息をつきそうになりました。が、彼女に悪気はなく、彼女なりに一生懸命、彼の両親に気に入られようとした結果だろうと解釈することにしました。
このコラムに載せた記事は、完全なフィクションです。
ですが、初めて会う彼の両親に一生懸命気に入られようとする心は、なんともいじらしく愛らしいのではないでしょうか。
そして頑張りすぎた彼女を受け入れる彼は、本当に彼女のことが好きなのでしょう。
ちなみにこの2人は結婚することになります。彼の両親、特に母親は、彼女のことを知るにつれ、見かけはともかくいい子だと認識するようになりました。
彼女の母親や弟についても、人のいい気持ちの良い家族なのだと思いました。
彼と彼女は祝福され、きっと幸せになるでしょう。